『彼女はつっこまれるのが好き!』

『では始めまーす!』
なにをデスカ。
突然耳元で聞こえた声に、心のなかでツッコミを入れずにはいられない。

小説において主人公は読者の感情移入の対象となる―なんて言葉はもちろん何も与えてくれない。じゃあわかってる人だけで話を進めようか。主人公と恋愛するヒロインと恋愛したことのある人だけで。僕は恋愛って何かわからないので、いっしょにいたことだけをそう呼ぶ。
さておき、感情移入する主人公は読者と近いほうが感情移入しやすいかもしれない。平凡な高校生の主人公とはアメーバを自分と思えないという程度にエゴイスティックなシンプルさだけど。言うまでもなく、違う選択肢はある。光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女性騎士が主人公でも人は感情移入できるし、できないやつはドン・キホーテと呼んで空想の中に排除すればいい。
選択もそれがなされたことも後の結果も別問題だ。とりあえず平凡な高校生を主人公に据えるという市民的にも見える選択がなされたあとの結果の前に僕は立っている。「常村良人」という名が示すのは、常にただのいい人であるようなつまらない存在であり、そんな彼が物語の主人公として舞台に上がるのは、大人気ライトノベル『ぼいる・しゃるるの法則』のアニメ化に伴い始まったラジオ『ラジオの法則』に「村人B」として出演することによってである。共演するのは「幼いころから子役として劇団に所属し、声優に転向してからは、さらに人気はうなぎのたきのぼり。ありえないぐらい、すごい」、大人気声優音無まどかであり、もちろん二人はつりあわない。ここには現実と夢の距離があって、埋めるのは幻想とロジックだ。「アイドルのあたしに普通に話しかけてきたのはあなただけだった」という理由付けにしかし、リアリティを感じられない人もいる。だってそんなのリア充じゃないか? 女の子に「普通に」話しかけられるわけないじゃないか? でも僕にはなんのとりえもなくて使えもしない言葉をそれでも信じるしかない。だからひねり出そう。ぎりぎりの舞台に切り詰められて自分から意味を形成できないような喉元からかろうじて漏れ出る言葉――つっこみ。

素人だから、先のことなんて読めないし、思ったことを言うしかできない。それがいいのかもしれない。それに加え、音無さんが完璧にリードしてくれるという要素も大きい。しゃべることが、こんなに楽しいことだったなんて。

できることを切り崩して切り崩して平凡な高校生に残ったもの、それが自分のものではない反応でしかないノリツッコミ。これだけを持って村人B―モブキャラ―は主人公になる。
平凡な主人公がヒロインとの距離に懊悩する作品として電撃文庫では『イリヤの空、UFOの夏』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などがある。繰り返すが、平凡であることを捨てても一向にかまわない。(例えば冬木冬樹にとって平凡なようで主人公が実は超人であることは自明である。)平凡であることを突き詰めれば物語の根拠はどんどん失われていく。去勢されきった文体でそれでも物語が可能だと、応答する。彼女はつっこまれるのが好きだから。ってタイトルが下ネタかよ!(ノリツッコミ)