鏡遊『神なる姫のイノセンス』

昨日の話の続き。

神なる姫のイノセンス (MF文庫J)

神なる姫のイノセンス (MF文庫J)

この小説は、『王の声』(オーバーロード)という絶対遵守の力を持っている主人公が、例外的に能力が効かないヒロイン(×7)と『誓約』(エンゲージ)して(まあパクティオーみたいなアレ)、ハーレム王になる、という話なのですが、主人公は能力のせいでまともな人間関係を作れなくて、ヒロインは能力効かないから心を通わすことができるというロジックで、つまりヒロインのみが他者なのですね。それ以外の人間は能力で改変可能なので他者たり得ない。で、この設定は前書いた「私」―美少女の二元論的世界観を物語で表現しているわけです。改変可能なものとは「私」に還元可能なもので、その独我論に回収されないことが他者=美少女の定義であると。
もう少し内容の話をすると、矛盾するけどギアス的能力ってヒロインにこそ使いたいわけで、だけど効いちゃったらどうしようもない。そこで全面的に効くわけではないんけれどもある程度は効く、というのはまあ良心的だと思いました。
独我論的全能性を形而上で支えるのが主人公の能力である一方、もっと唯物的なレベルでは世界的企業グループ(笑)の当主である妹が受け持つ、つまり妹=主人公となり、妹の能力で主人公が妹の身体に入り込む、みたいなエピソードもそれを示している。でも妹って攻略対象に決まっているので最後のヒロインは妹だというフラグがビンビンで、妹というか自分の分身を攻略して自他の境界を見極める展開に多分なるのです。
まあかなりクレバーなラブコメで読んでて気持ちよかったです。