オーガスト論補遺:夜明け前より瑠璃色なMCについて ーハーフ・(ディス)コネクテッドな(ryー ※ネタバレあり  

続き
 シンシア・マルグリットというキャラクターを考えるに際し、彼女がファンディスクの追加ヒロインであるという事実を考慮に入れないわけにはいかない。追加ヒロインは作品世界に居場所を築くために既存のヒロインと被ってはいけないが違和感が強すぎてもいけない。そこにバランス感覚が要求される。シンシアの事情は同じ追加ヒロインである遠山翠エステル・フリージアとも異なっている。PS2移植版でヒロインとして追加されたこの二人は、まさに二人であり相互に対照的であることで(たとえば翠はサブキャラからの昇格なのに対しエステルは完全新規キャラ/翠は地球人でエステルは月人/翠は最初から達哉のことが好きなのに対してエステルははじめ地球人である達哉を嫌っている)その間でバランスをとることが可能になっている。しかしシンシアは一人であり、『MC』で『けよりな』の展開が終了と宣言されている以上彼女の後にさらなる追加キャラが存在する可能性もない。そこで彼女には、すでに一度完成した作品世界に侵入してその完全性を保ったままアップデートし、作品を閉じるという困難な任務が課されることになる。
 シンシアは元々この時代の人間ではない。つまり作品世界の外にいる。彼女がこの時代にやってくるのは空間跳躍のデバイスを回収するまでの間だけであり、それは一時的なものにすぎない。本来無関係な世界に彼女を関わらせるのは、彼女がヒロインの一人リースリット・ノエルの体に宿るもう一つの人格であるフィアッカ・マルグリットの妹だという事実である。朝霧家という共同体の中にヒロインが配置されるこの作品で、半ばその外にいる迷い猫であるリースとのみ関係を持ち、さらにそれがリース自身ではなくフィアッカとの関係であるという事態が示すのは、シンシアのこの世界との関わりが危うい糸のようなものにすぎないということだ。
 通常ヒロインはほかのヒロインとの差異の体系の中で把握されるが(弊害としてのメインヒロイン毎回Cカップ問題)、半ばその外にいるシンシアのかわいさは直接的に、ことばによって表れる。

再び目を開いたとき、そこには少女が浮いていた。
その姿は、優美でありながら、どこか悲しさすら感じさせるような繊細さがある。
建物の華麗さを引き立てるべく配置された、女神の彫像のようにも見えた。
彼女の月光をまとった髪が揺れず、
静謐で楚々とした睫毛が震えず、
桜の蜜を一刷毛したような唇が開かれなかったのなら、
やはり彼女を人間とは認識できず、その美を鑑賞するのに多くの時間を費やしたかもしれない。

頭頂部で結ばれた長い髪が、ふわりと舞う。
とびきりにきれいだ

真摯で、どこか儚い視線に、ふっと引き寄せられそうになる。
魅力って言うか……例えるなら、引力がある。