メフィスト八月号

いまさら感はあるが今月の古野まほろ情報。今発売中の「メフィスト」に、短編小説は今回ないですがノベルスあとがきのあとがき『探偵小説のためのエチュード』が載っています。「探偵小説」シリーズは携帯小説っぽいというセルフつっこみ。あと『天帝のみぎわなる鳳翔』の次は『天帝のやどりなれ華館』だそうだ。華やかな館というと修野家の柘榴館が思い浮かぶな。
修野まりには弟がいると『果実』で書いてあったけど『御矢』では兄になっているのはどうしてなんでしょうか。ミス?それとも壮大な伏線?
今日のまほろ礼賛 
「詩織さんは何の薔薇なの?」「あたしは、―薔薇じゃないわ、鳳仙花(タッチミーノット)」
ちょっと簡略化しているが『天帝のはしたなき果実』より。
質問に対して鳳仙花(タッチミーノット)と返すことで「触れないで」というメッセージを送っているわけですがこれは鳳仙花の英語名がtouch me notであるということを受け手と話しての双方が知っていないと成立しない会話で、僕は当然知らなかったのですが、読者の多くは知らないと思います。これはルビがないと意味が分からない会話で、これに限らずまほろの会話は実際にその場に居合わせて聞いていたらわけが分からないだろうものが結構あります。活字に起こしてルビを振ることで理解が可能になっている。
あとは「まだ生きていて、いいの?」「あなたは、よりましだから」『(御矢)』とか。「よりまし」というのは辞書を見ると依代と同じ意味なんだが、ひらがなで「よりまし」だとベターであるという意味にも取れるんだよね。しかもあなたはベターだから生きていてもいいっていかにも修野さんが言いそうな言葉なんだこれが。『孤島』で「よりまし、やめなさい」というせりふがあってそれでああ、よりましは名詞なんだ、というのがわかって、こういう意味の収束が『孤島』のラストを導くんだということは前書いたけど。ここでもうひとつ注意しなくてはならないのは依代とベターって字にすると同じ「よりまし」になるけど「あなたは、よりましだから」という文を発音するとその二つで違ってくるということだ。音声ではなく書かれた言葉だからこそこの仕掛けは成功する。
こういう文章は音声での会話ではできない活字独自の可能性を切り開いている。